裁判官にとびかかる「少年院送り」の乱暴激増 朝日新聞引用

1959年11月09日 (昭34)
大阪府
家庭裁判所で審判をうける少年が、裁判官にとびかかるなど大あばれする例が最近めだってふえてきた。最高裁ではこのほど、各地の家裁に実情の報告を求める通達を出し、今月末の全国少年係裁判官会同で原因や対策を検討することにしている。

先月末、大阪家裁の裁判官たちは「このままでは裁判所の威信がたもてないばかりか、裁判官の身にも危険を感ずる」との報告書を最高裁家庭局に出してきた。それによると、同家裁の少年審判廷では、こうした騒ぎが三十一、二年には二件ずつしかなかったのに、三十三年は九件、ことしに入ってからは十二件も起きている。
どれもきまって裁判官が「少年院送り」といい渡したとたんのことだ。机の上の記録を投げつけ、裁判官におどりかかろうとした十八歳の少年、十四歳の少女があばれまわって窓ガラスを二十枚もこわした例など。「殺してやる」と叫びながらイスをふり上げ、あやうくとめられた少年もある。東京家裁でもインクビンや灰ザラをつかんで投げつけるようなことが時々あるという。
審判廷といっても、刑事法廷とはちがってふつうの事務所だ。テーブルをはさんで裁判官と少年が向かいあうだけ。少年鑑別所の事務室を臨時につか一つ仮審判廷では、ことにこういう事故が起りやすい。だから「法廷にちかい、威厳のある施設に改善し、警備員もふやしてほしい」というのが大阪家裁の要望だった。しかし、市川最高裁家庭局長は「間題はもっと根ぶかい」とみている.「こういう傾向が出てくると、すぐ非行少年の凶悪化だと片づけられがちだが、原因は裁判官の方にもあるのではないか。第一に、裁判官の人手不足、もうつひとつは、経験のたりない判事補が多くなってきたことだ。そのため、相手の少年にいきなり言い渡すものだから興奮させる」と同局長はいう。

少年事件は二十七年から三十三年まで約三倍にふえているのに、少年係裁判官、調査官の数はほとんど変っていない。事件に追われては、一人一人の少年とゆっくり話し合うひまもなくなってくる。窃盗などは、審判の時間はふつう十数分、調査官の報告書をもとに、それで少年の処分はきまってしまう。また、裁判官の絶対数が足りないため、経験の深い裁判官はともすると地裁にとられ、経験五年以下というような若い判事補が少年係に回されてくる。大阪家裁の例では、ことし騒ぎを起した十一人のうち九人までが窃盗程度の軽い罪で、粗暴犯ではなかった。そうした少年があばれるのは、たいてい若い判事補の担当した場合だと最高裁当局でもいっている。
東京家裁中川上席判事の話「実際に少年あつかっていると、ちかごろの非行少年は以前にくらべてずっと情緒が不安定になっており、興奮して乱暴もしやすい。後略」
(朝日新聞11・9)
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