不良狩で暴露された当世職業婦人の内幕 軟派硬派の『悪』より恐しい盛り場を毒す現代女 東京朝日新聞引用

1929年08月07日 (昭4)
東京都
警視庁不良少年係では最近検事局と協力して連日の如く欽座、新宿、渋谷、四谷等各方面の盛り場で不良狩りを行ひ毎夜四五十名の不良モボ、モガを検挙し、一応取調べの上不良態度の軽いものには説諭を加えて帰宅を許してゐるがこの総ざらへ的検事の結果係官の眼に映じた不良モボ、モガの傾向は従来のそれとは非常に違ひ、むしばまれてく社会層のある断面が痛切に暴露されるに至つた。

何一つ不自由のないお嬢さんが案内人 ジャズ生活に浸りたい一心 男から男への生活 今日まで網にかゝつた男女の数はほゞ同数位であることも新傾向だが、その内挙げられた女の七割は職業婦人であり、男は若い会社員が全部的であることが分つた。昔日はかうした場合検挙されるものは女は大概職業的売笑婦、男は硬派、若くは軟派と称するいはゆる不良に限られてゐたのだが、今やさうした職業的不良は数において遠く前述のきやう楽主義中心の男女におよびもつかなくなつた、それは職業婦人は外出が自由で多少なりとも経済的独立があつて、お小遺ひに不自由しなく会社から一度は自宅へ帰る、それから濃厚に口紅などつけて銀座その他に出てまるでストリート・ガールのやうな態度で面識もない男に話しかけ、友達となり、華やかな火影に戲るるといふのが現状である、かうした男女の気り合つた動機について係官の取調べたところによると、ほとんど女から能動的に出てゐるに対し、男はやはり平凡で昔も今もあまり変りはなく、昨今の女の変り方は実に著るしく、こびを売るのではないが男から男へただきやう楽中心に渡り歩く、貞操とか結婚とか家庭といふやうな人生の厳しゆくな真実についてはほとんど何んにも考へてゐないやうだと係官は驚いてゐる、一例を挙げると 某商事会社重役の令嬢が今度挙げられたが、この女は家出後、時々実父に面会を強要して三十円乃至五十円の金をせびる、もし金をくれなければ売笑婦になるなどといつて父を脅迫する、そして自分は京橋八丁堀に二間の家を借りてそこに一人で生活し、朝起きればすぐ銀座へ出で男の友達と活動に行つたり、ダンス・ホールに出かけたり、ホテルに泊つたりしてゐた 更に其商館理事の令嬢は親の家を出て常設館の女案内人を何の不自由のない身でありながらしてゐたといふ事実もある、廃たいしきつた彼の女等には家庭の日常生活などは灰色すぎてゐられない、身を女案内人にまで落して、ジヤズ的な悪魔的な空気に浸つてゐたいといふのである。

かうした実例は今度の検挙の中には無数にある、兎に角もつとも堅実な家庭として見られてゐた中流社会の子女が、もつとも多いのも新しい傾向で、かくまで魂が腐つてきてゐるかといふことがわかつてむしろ恐しいと係官は舌を巻いてゐる デカダン過ぎる最近の世相 ヨリ以上の不良老年 三輪田元道氏の談 「慨はしい傾向だと思ひます、一般に最近の世相はテカダンに過ぎる、この世相が意志の弱い青年男女をどんどん不良の徒の中にまき込んでゆくのだ、これは社会共同の連帯責任である、単に家庭とか学校とかだけを責める訳にはゆかない、しかも旧道徳は時代思想に打ちこはされ、しかも新道徳の建設なく、今の若い人達は正にその迷路にさまよつてゐるのだ、権威ある学者によつて時代に副ふ新道徳が提唱される事を吾々は望んでゐる、もし警視庁が不良老年狩りをやれば更に数倍の検挙者をだした事であらう、是等の不良老年が真先に悪い範を垂れる結果は、その家庭にいゝ影響を与へない、要するに社会の環境がかうした不良青少年を生んだので、これは政治家も教育家も社会改良家も共に真面目に考へねばならぬ事だ。」 (東京朝日新聞192908.7引用)
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